万葉の花 flower story
「月」「神無月」 (10月 尾花)
「月」
月齢(月の満ち欠け)をつかさどる月は、農耕生活と深く関わり、
夜空に美しく輝くことから神(月読命)が宿るものとして信仰の対象とされた。
『日本書紀』によれば、月読命が食物神の保食神(うけもちのかみ)を斬り殺した結果、
その死体から牛馬や繭、栗、稗、稲、麦、大豆、小豆といった穀物が生じたとされる。
万葉集では、月を詠んだ歌は200首近い。
月、月夜、朝月夜、夕月夜、若月(三日月)、居待月(月が出るのを待つ)、
月読壮士(つきよみおとこ。月を擬人化したもので男を意味する)などの表現の他、
「十六夜」という語も生んでいる。
月の夜を十六夜、立待ち、居待ち、寝待ちと呼ぶ言い方が平安期に定着するが、
多分に恋愛用語として成立したものと思われる。
( ⇨ 「お月見」について はこちら )
「神無月」
旧暦十月の別称。
神々が出雲大社に集まるため神がいなくなるというのは、平安時代『奥儀抄』などに見える俗説。
出雲大社で神在祭が行われるようになったのも中世14世紀半ばから。
語源や呼び名は以下のように諸説あり不明。
神無月(「な」は「の」の意(水無月=水の月)で、神の月、神祭りの月)
醸成月(かみなんづき 新米などで酒を醸造する月)
神嘗月(かんなめづき 新嘗祭(にいなめさい)の準備をする月)
雷無月(かみなかりづき 雷がほとんど無い月)
初霜月(初霜が降りる月)
建亥月(けんがいげつ「建」の文字は北斗七星の柄を意味し、その柄が旧暦で亥の方位を向く)
英語のOctober(オクトーバー)の、octはラテン語で第8の意味で、本来はローマ暦8番目の月という意味。
ユリウス暦を制定したジュリアス・シーザーが、7月をJuly(ジュリアスの月)とし、
帝政ローマ初代皇帝アウグストゥスが、8月をAugustとしたので、
2つ繰り下がって10月になった。
中世フランスでは収穫月、中世イギリスでは大麦月、現代スイスでは収穫月と、各々呼ばれている。
(酒井抱一『秋草鶉図屏風』山種美術館蔵)